インフルエンザ(2004年)B 先生、またそろそろインフルエンザワクチンの季節が近づいて来ましたね。今日はインフルエンザワクチンについてのお話を伺うわけですが、まずその前にインフルエンザという病気について説明していただけますか? T わかりました。確か、この話は今回で3年連続なんですが、今までお話した事をかいつまんでまとめてみたいと思います。 T まず、インフルエンザと言うのは、インフルエンザウイルスに感染することによって起こる病気です。ウイルスにはA型、B型、C型と言う型がありますが、人で流行するのはA型とB型です。A型は大きな流行を、B型は比較的小さな流行を起こします。 一般には、まずA型の流行が起こり、その後Bが流行することが多いです。 B インフルエンザと普通の風邪との違いを教えてください。 T はい、それではこの表をご覧ください。 インフルエンザ 普通感冒 流行性 強い 弱い 主な初発症状 頭痛、発熱、関節痛などの全身症状 鼻水、喉の痛み、咳などの呼吸器症状 熱の高さ 高い(39度前後) 低め(38度ぐらいまで) 発熱期間 3~5日 2~3日 合併症 肺炎、脳症、筋炎など 気管支炎など まず人にうつっていく力は、一般の風邪に比べると、インフルエンザは圧倒的に強いです。 最初に出る症状は、喉や鼻水などの局所症状ではなく、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状の事が多いです。B型の場合は下痢、腹痛などの消化器症状も目立ちます。 熱は一般に3~5日と長く続きます。そして風邪に比べると肺炎などの合併症が多く、小さいお子さんでは高熱のために熱性けいれんも起こしやすいです。時には脳症などの特殊な合併症も起こします。 B 先生、今最後におっしゃった、脳症と言うのは最近はよく耳にするのですが、もう少し詳しくお話を伺わせてください。 これは、どんな症状でいつ頃起こりやすいんですか? T 脳症というのは、インフルエンザの発病初期に、意識障害や嘔吐、痙攣などの中枢神経症状で発症します。頻度は10万人あたりに2・5人ぐらいと少ないのですが、発症すれば死亡率が高い合併症です。好発年齢は1才から5才くらいまでと言われています。この好発年齢と発病初期に起こりやすいという特徴は、熱性痙攣と似ており、両者の区別が難しい場合もあるので注意が必要です。 B わかりました。次に診断についてお話を伺います。 T はい、診断は、これまで述べたような典型的な症状や経過を示し、その周囲の発生状況を参考にしながら行います。要するに、周りにインフルエンザの患者さんが沢山居て、典型的な症状を示せば、まずインフルエンザだと診断しても間違いないと思います。 B 確かインフルエンザには確か診断キットがありましたよね。 T そうです。数年前から診断キットが使えるようになりました。これは鼻や喉の中を綿棒で擦って、付着した分泌液にウイルスが居るかどうかを免疫学的に調べます。大体15分前後で結果が出ます。最近はA型とB型の区別が出来るキットが多いです。これによって、診断が正確に、そして微妙な症例の診断には大変役に立つようになりました。 B この検査はインフルエンザの患者では全て陽性にでるんですか? T いえ。この検査で陽性と出た場合、まずインフルエンザと考えて間違いないですが、陰性と出てもインフルエンザを完全に否定できる訳ではありません。この検査は種々の条件に左右されます。 B と、いいますと? T 例えばしっかりと鼻や喉が擦れてないとウイルスが採取できてない場合があります。何よりも大事なのは検査のタイミングですね。あまり時期が早すぎると陽性に出ないことがあるようです。 B どのあたりのタイミングならよろしいのでしょうか? T 高熱が出だしてから半日ぐらい経たないと、検査が陰性に出てしまう人がいるみたいです。ですから、検査結果だけでなく、症状や周りの流行状況など、全体から判断しなきゃいけないですね。 B 次は治療について話を伺います。確か、インフルエンザの特効薬がここ数年使われるようになってますよね。 T そうです。飲み薬と吸入するお薬がありますが、これらの薬は発病して早く飲むほどよく効果が出ます。大体48時間以内に治療を始めるのが目安です。 B どの位で効果が出てきますか? T 早い人は1日ぐらいで熱が下がる人も居ますね。大体3日以内には効果が出てくるようです。 B お薬は何日飲めばよろしいのだったでしょうか? T 基本的に5日間の服用する事になっています。 B 高い熱が出た時、解熱剤の使用について、注意がありますか? T 子供さんの場合は、アセトアミノフェンという薬を試用してください。 アスピリンや、大人が使う解熱剤を使ってはいけません。 B 学校は出席停止でしたよね。どのくらい休めばよかったのでしょうか? T インフルエンザは学校伝染病なので出席停止になります。 いつまでかと言うと、熱が下がって2日経過するまでです。これは何故かと言うと、インフルエンザの場合、3日目くらいで一旦熱が1日くらいさがり、またもう一度熱が出てそれから解熱するという2峰性の熱の出方をすることがあるからです。 ですから、1日熱がないからと言って治ったとは油断が出来ない訳ですね。 B 分かりました。では、先生ここで、診断と治療についてまとめてください。 T はい 診断は、症状や周囲の発生状況を参考にするが、診断キットが有用である。 抗インフルエンザ薬は、発病48時間以内に開始するのが望ましい。 抗インフルエンザ薬の服用は原則として5日間である。 子供の解熱剤にはアセトアミノフェンを使用する。 学校は熱が下がってから2日を過ぎるまで休むべきである。 B では、先生、今度は予防についての話を伺います。 T はい。インフルエンザの予防には、うがいや手洗いをして、流行時期に人混みに行かないなどの一般的対処も有効ですが、何よりもワクチンにつきると思います。 B では、そのワクチンについての話を伺います。ワクチンを打てばまずインフルエンザにはかからないわけですか? T いえ、残念ながらワクチンの効果は100%ではありません。大まかに言うとワクチンによって発病の危険を30~40%減らせる事が出来ると言われています。もちろん、重症になる人や死亡する人も減らします。 B このワクチンにはA型にもB型にも効くのでしょうか? T ワクチンは、前年度の流行株を参考にして、その年の流行の株を予測して作られています。もちろん、AとBと両方の型に対応しています。 B ワクチンを打ったけどかかってしまたっと言う話しもよく聞くのですが。 T 先ほどもうしましたように、ワクチンの効果は100%ではありません。 効果には限界があります。特に学校や職場などの密閉された空間に沢山患者さんが居ると ワクチンを打った人もかかってしまう事が多いようです。しかし、かかっても軽く済む事が多いと思います。一般に過去に感染した事がある人、過去にワクチンを打っている人の方が効果が高いと思われます。ですから、ワクチン接種は毎年続けてする方が良いと思います。 B よくワクチンと流行している型が違えば効かないと言いますが。 T 型には大きな型と小さな型があります。大きな型が違うと言うのは、全く新しいウイルスが出現したと言うことで、それならワクチンは効かず世界的代流行が起こります。ただ、大きな型の変化と言うのはここ数十年見られておりません。小さな型の変化は毎年のように起こっていますが、小さな型の場合は、多少違っても共通の性質があるのでワクチンの効果は期待できます。毎年のように流行するA香港型、Aソ連型、B型は全てワクチンに含まれています。 B やはり、出来る予防はしておいた方が良いと・・。 T そう思います。 B このワクチンはいつ頃打てば良いのですか? T ワクチンを打って効果が出てくるまでに最低2週間くらいは必要とされています。ですから流行の始まる2週間以上前に打ち終わっている事が望ましいですね。例年、12月に入るとぱらぱら患者さんが出てきますから、12月初め頃までには終わっておきたいです。 B 打つのは1回で良かったのでしょうか? T 大人は1回ですが、13才未満の子供さんは2回接種するべきだと言われています。 B それはどうしてですか? T 大人は過去にインフルエンザにかかったり、ワクチンを打ったりしていて免疫の記憶があり、1回の接種によってその記憶が呼び起こされ、増幅効果によって免疫効果があがるのですが、子供さんは過去の記憶が全くない、もしくは少ないので1回の接種では効果が弱い事が多く、2回の接種で強く免疫をつける必要があります。 B わかりました。では、1回目と2回目の接種はどのくらいあけたら良いのでしょうか? 打ったワクチンの効果はどのくらい続くのですか? T 1週間から4週間とされていますが、3~4週が理想的だと思います。 ただ、実際には打つ時期が遅くてせっぱつまっていたりすると、1~2週で打つ場合も仕方ないですね。接種したワクチンの効果は約半年続くと言われています。 B このワクチンは何歳からでも接種できるのですか? T 年齢による制限はありません。しかし、6か月以内の小さい赤ちゃんに対する効果は疑問視されています。 B とすると、小さい赤ちゃんが居るご家庭は、その周りの人も接種して置いた方が良いと言うことですね。 では、このワクチンを是非接種して置いた方が良いのはどんな人でしょう? T 高齢者の方はもちろんですが、子供さんでは先天性の心臓病や、喘息などの呼吸器病などの基礎疾患を持つお子さんですね。妊娠中期以降の女性も受けて置いた方が良いと思います。 B 妊婦も接種できるのですね。お乳をやっているお母さんはどうでしょう? T お乳をやっていても問題ありません。赤ちゃんへの感染防御と言う面からも受けた方が良いと思います。特に、1才以内の赤ちゃんは、ワクチンの効果があまりよくないので、本人だけでなく、周囲の人がきちんと接種を受けておくべきだと思います。 B 逆に接種してはいけない人はいるのでしょうか? T 高い熱があったり、明らかに別の感染症にかかっている人は不適当ですね。 他に、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の投与を受けている方も効果が悪いのでよく主治医との相談が必要になりますね。 B 卵にアレルギーがあると駄目と聞きますが。 T インフルエンザワクチンは鶏卵で培養したウイルスを使っています。ですから問題になるのは卵アレルギーですが、ワクチンに含まれる卵の成分はわずかなので、全ての人が駄目という訳ではありません。 卵の摂取によって激しいアレルギーを呈した事のある人や、アレルギー検査のスコアが高い人は要注意でしょう。逆に卵そのものを除去していても卵の2次製品を食べても大丈夫な方は、接種しても大丈夫だと思います。 実際には個人により様々ですので、主治医と相談の上様々な事態に対処できるようにして接種するべきだと思います。 B わかりました。では、ワクチンの副作用にはどんな物がありますか? T 副作用の多くは注射をした場所が、腫れて赤くなったり堅くなったりする事です。大人に多く、半数近くの人に見られますが、数日で改善するので心配は要りません。発熱や全身倦怠感などはまれです。 B ありがとうございました。では、最後にまとめをお願いします。 ワクチン接種はインフルエンザの予防に有用です。 大人は1回の接種、13才未満の子供は2回の接種が必要です。 接種は流行時期の2週間前には終わるようにしましょう。 卵のアレルギーのある方は、主治医とよく相談しましょう。 ジャンル別一覧
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